鑑定手法

筆跡鑑定

筆跡鑑定をご依頼いただくときの資料の状態は、原本もしくは鮮明なカラーコピーが最適です。

モノクロのコピーでも鑑定できます。モノクロコピーの場合は、そのコピーから検出できるデータがカラーコピーに比較して、データとしては、1/4未満になります。

鑑定においては検出できるデータが多ければ多いほど、解析作業の手間が少なくなります。
弊鑑定所では2021年には、資料の解像度を従来の600dpiから1.5倍以上に挙げて解析を行っています。

下記は原本筆跡を高解像度化したものです。
原本筆跡の高解像度化の画像
これはカラーコピー(400dpi)の筆跡です。
カラーコピー(400dpi)の画像

この2つの映像を比較すると、カラーコピーの筆跡が若干くすんで見えますが、実作業で、データを測定する場合の検出力には差はありません。
ただし、更に5倍程度に拡大したときには、差が出てきます。

の交点部分を観察すると、原本では横に送筆された画が、縦の画の後から書かれたことが鮮明に分かります。カラーコピーではこの判別がつきません。

つまり原本を鮮明な解像度で解析すると、筆順が分かりますが、コピーの場合はその判別がつきません。ただ筆順の差異を争う場合は、筆跡鑑定では少ないといえます。
むろん測定してデータ化するには、コピーでも支障はありません。

筆跡鑑定の鑑定要素

筆跡の鑑定要素画像

上記が筆跡の鑑定要素です。
ただし、赤枠の部分は、リアルタイムでないと、測定できませんが、その他の要素は、オフラインの資料の筆跡から測定できる要素です。

正しい鑑定を行うには、理論に基づいて数学的に正しい補助線を書いて、同じものさしで、測定できるようにしないといけません。

この手法は最近の論文や特許出願資料にも記載がないものが、ほとんどです。古い文献には記載があるので、その探求が疎かになっているので、信頼性ある鑑定ができていません。

人が書いた筆跡には特徴があります。

  1. 一筆で書かれていること。
  2. 同一人物でも寸分違わぬ文字を書くことはできない。

(1)は数学では、有向グラフ理論となります。つまり一筆書きも数学的に解明されて、学問になっています。
(2)は筆跡は統計検定で解析できることを意味します。これにより、筆者照合や筆者識別が可能になります。

筆者照合は、その書類を本人が書いたか否かの問題であり、鑑定書類が遺言書や契約書であれば、その書類が有効か無効かの民事事件となります。

筆者識別は、その書類を誰が書いたかの問題であり、怪文書等では刑事事件となります。

この筆者照合と筆者識別に有効な鑑定手法は、文字の大きさや配置、筆記具の送筆距離と送筆方向等を測定して、デジタル化し、筆者の文字毎の個人内変動や筆者の持続性のある筆跡個性を詳細に解析できる統計検定やクラスター分析が極めて有効です。

この2つの鑑定手法を組み合わせて、筆者照合や筆者識別を統計的に鑑定します。

重要なのは印章鑑定とは異なり、真である筆跡を偽と鑑定する第1種の誤りと、偽である筆跡を真と鑑定する第2種の誤りに細心の注意を払うことです。

印章鑑定

印影で印章鑑定する場合、法人は印鑑証明書、個人は印鑑登録証明書を対照資料として添付いただければ鑑定が効率よく進められます。

印章鑑定の場合も鑑定資料(疑わしき印影の資料)は原本もしくはカラーコピーであった方が鑑定が正確にできます。

印章鑑定においても2019年から高解像度で鑑定しています。

この2つの資料で重要なことは、補助線として印影輪郭部内側に接する真円を描いていることです。その直径は原本が15874.4µmで、コピーが15885.5µmです。その差は11.1µmです。

その差は0.07%であるので、印影を精密な工業製品としたときにこの差は十分誤差の範囲内です。
つまり0.01mm単位で測定して場合は、0.01mmしか違わないことになります。最新のコピー機ではこれだけコピー精度が向上しています。

印影の鑑定で重要なのは、補助線であり、輪郭部に内接する円もその一つです。無論これ以外に有効な補助線を使用します。補助線があれば、印影の違いは理解しやすくなります。

鑑定についてのまとめ

鑑定するときに重要なことは、どのような数学を使用するのが有効かという問題が一番重要です。
数学を鑑定に使用するときは、その数学の得意な分野や比較的苦手な分野があります。いつも単一な数学で鑑定するのではなく、目的とする鑑定に即した数学を選ぶことが重要です。

ある成功体験から、すべての鑑定が一つの数学で解けると考えるのは間違いの元です。狭い視点からだけではなく、広い視点から解析するのが重要です。

現在の科学は人工知能を使用した解析が盛んですが、すべて人工知能で解析するのではなく、人工知能ではなく他の分野から解析したときに、分かりやすい結果が導き出せる数学があるのなら、その数学で解析すべきです。

現在のデジタル技術の進歩は、特に印影の偽造を容易にしている。
また筆跡の偽造に関しては、筆跡鑑定人のホームページをみて、偽造の手法を考えていると思われます。鑑定のご依頼が圧倒的に多い筆跡鑑定については、本ホームページに記載のとおり、従来考えられていた以上にたくさんの鑑定できる要素があることにお気づきいただければと考えます。

お困りの方がいらっしゃれば、何なりとご相談ください。
相談は無料です。

統計検定した5画の文字『本』の鑑定例

筆跡統計検定の実例

文字『本』の送筆距離検定統計量
送筆距離検定統計量画像
文字『本』の送筆方向検定統計量
送筆方向検定統計量画像

判定の部分は、検体の検定統計量が誤差範囲であるか否かを論理式で解析している。

解析分析は「1.送筆距離 8成分」、「2.送筆方向 8成分」の計16成分で行った。上記16成分のうち、対照標本が形成する誤差の範囲を超えたのは5成分である。誤差の範囲が5成分であれば、確実に鑑定検体1-1は偽筆であるといえる。

結果画像

この結果より、鑑定検体が対照標本と同筆である確率は0.00000031未満である。

外れ値の成分表示

この解析例では、画数の少ない5画の文字『本』で鑑定を行った。
統計検定は目視による鑑定よりもきわめて正確である。したがって、目視では、誤差の範囲の2.5倍以上の外れ値でないと、真偽判断はつかない。
測定に基づく統計検定は正確に真偽判断できる鑑定手法である。

表示してある文字「本」の大きさは実寸であり、同じモノサシで測れるように変換していない。
使用している統計検定はt検定であり、片側の危険率0.05である。

文字「本」送筆距離検定統計量
送筆距離検定統計量画像
文字「本」送筆方向検定統計量
送筆距離検定統計量画像

クラスター分析

クラスター分析は、数学的にデータを分類する方法である。「統計検定した5画の文字『本』の鑑定例」で計算された別のデータで解析してみる。

クラスター分析例

統計検定に使用した文字「本」の送筆距離の正規化データである。

データ画像

このデータのうち1画-1と3画のデータで、散布図を描き、クラスター分析を行う。

データ画像
文字「本」の1画1-1と3画の散布図
散布図画像

上のグラフは、X軸が3画データ、Y軸が1画-1のデータである。
このグラフより、標本の集団に検体が入っていないことが分かる。
標本と検体は筆者が異なることが可視化されている。

本件は筆者照合問題(本人が書いたか否か)でクラスター分析をした。
筆者識別問題(誰が書いたか)で多数筆者のときは、更に数学解析が必要である。